琥珀色の記憶を辿る、ピカデリーの午後と”Fortnum & Mason” | A Journey Through Amber Memories at Piccadilly, “Fortnum & Mason”

ロンドンで暮らしていた頃、私の週末はいつもマリルボーンの静かな街並みから始まりました。お決まりのルートは、活気あふれるオックスフォード・ストリートを抜け、ボンド・ストリートの洗練を横目に、ピカデリーに佇むフォートナム&メイソンへと向かう道筋です。最後はジャパンセンターに寄って帰る——そんな何気ない、けれど贅沢な散歩道が、当時の私の日常を支えていました。


目次

歴史が紡ぐ至高のホスピタリティ

1707年、アン女王のフットマン(従僕)だったウィリアム・フォートナムが、王室で使い残されたキャンドルの余剰分を転売することから始まったこの店は、300年以上の時を経てなお、ロンドンが誇る最高級のホスピタリティと、甘く芳醇な香りで満たされています。重厚な扉を開け、現代建築の粋を集めた「ダブル・ヘリックス(二重螺旋)階段」を目の当たりにすると、歴史とモダンが同居するこの店ならではの空気に包まれます。


日常に溶け込む「セレンディピティ」

私がロンドン在住時に毎週のようにこの店を訪れていたのは、単なるショッピングのためだけではありません。そこには常に、思いがけない「セレンディピティ(素敵な偶然)」があったからです。格式高い店構えでありながら、店内には常時ディスカウントされた宝物が並ぶコーナーがあり、宝探しのような高揚感を与えてくれました。最高級のジャムやビスケットが驚くような価格で手に入る——そんな幸運な出会いを楽しみにして、地下の食品フロアから上の階まで、くまなく歩き回るのが私の習慣でした。


美食の迷宮と「旅人の糧」の物語

地下の食品フロア(Food Hall)は、まさに美食の迷宮です。ここは1738年頃、「スコッチエッグ」が考案された場所として広く知られています。当時、ピカデリーから西へと向かう旅人のために、馬車での移動中でも片手で食べられ、かつ栄養価の高い食事として開発されたという説が有力です。「発祥の地」としての誇りを纏ったその名物を前にすると、かつての旅人たちが感じたであろう安らぎと、何気ない一口に込められた歴史の重みを感じずにはいられません。


五感を満たすライフスタイルの探求

さらに視線を上げると、2階以上のフロアにも素晴らしい世界が広がっています。2階(Second Floor)に足を踏み入れると、まず迎えてくれるのは「世界で最も素晴らしい」とも評される香りの数々です。フレグランスやレディースビューティー、さらには紳士向けのアクセサリーまで、五感を満たす品々が整然と並んでいます。階段を上るごとに変化するフロアの香りと、天窓から降り注ぐ光のコントラストは、この場所でしか味わえない贅沢な時間です。

愛してやまない甘美な誘惑

特に大好きだったのは、マカロンやチョコレート、そして伝統的なクッキーです。宝石のように並ぶマカロンは、パッションフルーツやジャスミンといった繊細なフレーバーが揃い、一口ごとに職人のこだわりが伝わってきます。また、背面のチョコレートカウンターでは時に試食をさせてくれることもあり、甘い誘惑に抗うのは至難の業でした。


時を越えて寄り添う愛用品

当時の記憶は、今も私の生活の中に息づいています。美しい装飾が施されたクッキーやチョコレートの空き缶は、文房具を入れたり、キッチンでスパイスを整理したりと、今でも大切に愛用しています。丈夫なショッピングバッグもまた、日々の暮らしに寄り添う相棒です。


クリスマスの魔法と変わらぬ再会

一年の中で最もこの店が輝くのは、やはりクリスマスシーズンでしょう。24個の窓が巨大なアドベントカレンダーへと変貌し、アーティストたちが趣向を凝らしたウィンドウディスプレイは、ロンドンの冬の風物詩です。外壁に設置された「フォートナム&メイソン・クロック」からは、1時間ごとにフォートナム氏とメイソン氏の人形が姿を現し、優雅に時を告げます。

現在は日本を拠点にしていますが、今でも毎年、ロンドンを訪れるたび、足は自然とピカデリーへと向きます。時代が変わっても、変わらない場所がある。琥珀色の紅茶を淹れ、愛用している缶からクッキーを取り出すとき、私の心はいつでも、あの懐かしくも輝かしいロンドンの日常へと戻っていくのです。


Information

  • 店名: Fortnum & Mason (フォートナム&メイソン)
  • 住所/エリア: 181 Piccadilly, St. James’s, London W1A 1ER (ピカデリー)
  • 価格帯: ££〜££££ (日常の贅沢から特別なギフトまで)
  • Access: 地下鉄グリーン・パーク駅(Green Park)より徒歩約5分、ピカデリー・サーカス駅(Piccadilly Circus)からは徒歩約8〜10分
  • Notes:
    • 地下のFood Hallでは、「スコッチエッグ発祥の店」として知られる名物をぜひお試しください。
    • 4階の「ダイヤモンド・ジュビリー・ティー・サロン」は、2012年にエリザベス2世女王によって開かれた由緒ある場所です。
    • 屋上には養蜂箱が設置されており、ピカデリー周辺の都市環境の花々から集められた蜂蜜「ピカデリー・ハニー」が作られています。
    • 1時間ごとに現れる時計の人形(Mr Fortnum & Mr Mason)もお見逃しなく。

参考情報

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の店舗利用を強制するものではありません。最新の営業時間やサービス内容は公式サイトをご確認ください。

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この記事を書いた人

AI医師科学者芸人・医学博士・連続起業家・元厚生労働省医系技官
ハーバード大学理学修士・ケンブリッジ大学MBA・コロンビア大学行政修士
岡山大学医学部卒業後、内科・地域医療に従事。厚生労働省で複数室長(医療情報・救急災害・国際展開等)を歴任し、内閣官房・内閣府・文部科学省でも医療政策に携わる。
退官後は、日本大手IT企業や英国VCで新規事業開発・投資を担当し、複数の医療スタートアップを創業。現在は医療AI・デジタル医療機器の開発に取り組むとともに、東京都港区で内科クリニックを開業。
複数大学で教授として教育・研究活動に従事し、医療者向けAIラボ「Medical AI Nexus」、医療メディア「The Health Choice | 健康の選択」、美・医・食ポータル「Food Connoisseur」を主宰。
ケンブリッジ大学Associate・社会医学系指導医・専門医・The Royal Society of Medicine Fellow

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